綜合文藝同人「右左見」設立趣旨

 

(以下は『右左見』創刊号より「発刊御挨拶」の再掲です)

 

 本書は文芸同人誌『右左見』の創刊号である。寄稿している同人たちも、本誌のために組織された。墨田区向島、かつての色街にして今はレトロな下町商店街となっている「鳩の街」に、右左見堂という古書肆がある。2015年の11月15日に開業し、本誌が発行される頃、ちょうど一周年を迎える。同人はみな、この古本屋に集う人びとである。老若男女、さまざまの個性が、書を愛し、また各々も何かを表現してみたい、という点において連帯している。

 「右左見」という語は辞書にない、単に店主の思い付きの造語である。「王道を征く一流品ではない、右に偏り左に外れて忘れ去られていくような雑書も、酔狂の心で愛でよう。左右に視線を泳がせ、きょろきょろ、ふらふら歩いてこそ中庸の道を行くことができるのだ」という程度の意味を、屋号に込めた。そういう店に集う人びとであるから、みな酔狂者である。ために本書は酔狂の品評会である。この創刊号にも一応は「本について」というテーマがあり、古書店の一周年記念という性質もあるにはあるが、寄稿には何らの規定もなく、各々がてんでに好きなことを書いている。小説も詩も随想も評論もある、美味なるごった煮である。「総合文芸同人」を名乗る所以でもある。そこから何か、面白い化学反応が起こることを期待している。退屈でイマイマしい日常を吹き飛ばしてしまうような、爆発的な反応を!右左見堂は、そのための「場」でありたいと思っている。「本」を触媒として、人と人、酔狂と酔狂を結合させる実験室である。

 生まれたばかりの「右左見」同人は、来るものを拒まない。何らかの「こだわり」を持ち、それを纏まったかたちにして表現してみたい、という人は誰でも歓迎である。前述の通り、「ことば」で書いてありさえすれば形式は問わない。常に頭の片隅に居座り我々をそわそわさせる酔狂の虫を、SNSで小出しに「つぶやく」ことで宥めるのに飽き足らなくなってきた人は、いちど右左見堂にいらっしゃい。

 「右左見」同人は、シカメツラしい純文学同人ではない。所謂「意識高い系」のスノッブ集団でもない。ただ、己の嗜好に対してだけはひたすら真摯でありたい、そういう人びとだ。さらばこそ、我々の多くは実社会においてはボンクラ扱いされるような人間だ。なぜなら、そんな「真摯さ」は、生き馬の目を抜く「人生設計レース」においては邪魔っけな、余計な拘りだからだ。そうと分かっていても己の酔狂を捨てることができない、むしろ尚愛おしい。そんな人にとってのアジールでありたい、というのは大げさすぎるだろうか。

 

 さて、こうして創刊号を無事発行することができたことを、ひとまず喜びたい。総合文芸同人誌『右左見』は季刊を目指し、続刊予定である。詳細は未定だが、次は二〇一七年春号ということになる。右左見堂より、追って告知します。今回御寄稿頂いた皆様には、再び奮って御参加下さるよう期待する。また、本書をお読みになってご興味を持たれた酔狂者(あるいはボンクラ)の方にも、是非加わって頂きたい。お気軽に、右左見堂にお問い合わせ下さい。