右左見堂店主×まいこ インタビュー

開店経緯、お店のコンセプト、ビブリオバトルにかける思い

(2017年3月12日、イベント「こじらせビブリオバトル」の際に収録)

 

聞き手:まいこ

 

宝塚歌劇団とミュージカル、少女漫画が大好きなアラサー女子。 最近は、ビブリオバトルに参加しています。 趣味は声楽・アクセサリー作り。WEBライター・コミュニティFMリポーター・保育士。

 

(まいこ)「皆さんこんにちは。本日は、墨田区「鳩の街商店街」にある古書肆 右左見堂さんにおじゃましています。今回は、右左見堂の店主、右左見中道(うさみ ちゅうどう)さんにお話をうかがいたいと思います。

まず最初に、古書肆 右左見堂を開店なさったきっかけや想いについて、教えて頂けますか」

(右左見)「元々、ぼく、大学生をしながら、インターネットで古本を売るお仕事をしていたんですね。どうしても勤めをしたくなくて、勤めをしないで生きていける方法はないかしらと思って。「せどり」と言って、古本屋で値付けの甘いものを目利きで買ってきて、それをネットで売るような商売をしていました。まぁ、言ってみれば転売みたいなことですね。ある程度して、これでやっていけるかなと思っていたところ、この商店街でいいお話があったものですから、ここでやってみようかな、と。ここは大変気に入っていまして、永井荷風先生も通ったところですし」

(ま)「あぁ、そうみたいですね」

(う)「このへんは結構、掘り出し物が出る土地で。やっぱりお年寄りや古い家が多いものですから、掘り起し甲斐がある土地柄なんですよね」

(ま)「2015年の7月に「鳩の街100店プロジェクト」に参加して採用され、11月に開店されたそうですが、このプロジェクトはどんなものだったのでしょうか」

(う)「この商店街を歩くとわかりますけど、ちょっと寂れた商店街で、シャッター通りになっているところも実際あるんですよ。それで、少しでも賑やかになるように若い人や新しい店が入ってほしいということで、自治体と商店街が協力して一年間は家賃を免除してあげるよとか、内装費は出してあげるよとか、若い出店者を応援しようという企画ですね。で、集団面接で最終的にぼくを含めて3店舗くらいに絞られまして、ちょっとした経営計画のコンペとかしまして、まぁ、ぼくが選ばれたというような……と言うと、ちょっとやり手っぽいカンジになっちゃって、カンジ悪いですね。やめましょうか(笑)」

(ま)「いえいえ(笑)。ちなみに、選ばれた秘訣はなんだったのでしょう?」

(う)「ここでやろうというのは決めていて、プロジェクトが出る前からこのへんで探していたので、そういう熱意が伝わったんじゃないかな、とは思いますね」

(ま)「商店街の方や他のお店の方から可愛がってもらっているとお聞きしましたけど、このあたりは、そういった横のつながりがあるのですか」

(う)「そうですね、まぁ下町ですからね。まぁ、こういうボンクラっぽいガキがこういうことをやっていると「面倒みてやろう」というふうな奇特な方もいらっしゃいますね」

(ま)「なるほど(笑)。いろいろと皆さんに助けられたかと思うのですが、実際にお店を開店してからどんなことが大変でしたか」

(う)「いやぁ、もう何もかも大変で…。本のことは少しはわかりますけれど、商売のことは何もわからないものですから、帳簿の付け方一つとってもわからないし。今までずっとネットだったから、客あしらいということもしたことがなくって…。塾の先生のアルバイトは長かったんですけど、ショップ店員すらやったことがないし……。そもこの業界に飛び込む上で書店とか古書店でアルバイトすらしたことがない、というのはちょっと珍しいですね。普通は修業するものなんですけど。ネット古書店歴が長いだけにそういうことをやりそびれたままきてしまって、営業的なことを知らないまま始めてしまって苦労したところはありますね」

(ま)「でも、たぶん、右左見さんの人柄がこういうカンジなので、「助けたいな」と皆さん思われるのでは?」

(う)「そうですね。まぁ、「助けてやらないと死んじゃうな」と皆さん、思われたのかもしれませんね(笑)」

(ま)「死んじゃうって(笑)。ちなみに、「右左見堂」というお店の名前、こちらはどういった意味が込められているのですか」

(う)「ぼく結構、偏った思想というのが好きでして…。右っていうのは右翼とか軍国主義の右で、左っていうのは左翼とか学生運動とかの左で。ぼく自身は全くポリシーはないんですけど、偏っているものの面白さというものにこだわりがありまして、共産主義ならぬ「共産趣味」。ようするに若者文化とかファッションとしての学生運動というのがすごく好きで……。ゲバ文字といってヘルメットに書きなぐるような字で書いてあったりとか、そういうのが面白いと思って、「右も左も見るお店」という意味で「右左見堂」という名前にしたんですよ。今でもそこに、右の本の棚と左の本の棚が向かい合って置いてあって、その真ん中を行く者は真の中道をいけるんだっていうコンセプトなんですけど…」

(ま)「おぉー!そんなコンセプトが!」

(う)「まぁ、最近の仕入れは地域での買い取りばかりで、思想書があまり入ってこないからそんなに代わり映えしない棚になっちゃっているんですけど……うちのルーツですのでこの棚は大事にしたいなっていう気持ちはありますね」

(ま)「ぜひ、お店にいらっしゃった方は、この棚を見て頂きたいと思います。買い取りの際に心がけていることはありますか」

(う)「そうですね。やっぱりこういう趣味のものというのは特殊で、買うほうも売るほうも思い入れが強くなっちゃうんですよね。ぼくは商売として修業したことがないですから、買う人の目線・マニアの目線になっちゃうんですよ。そうすると最初はね……安く買い叩いて問題になるっていうのとは逆で、うっかり高く買いすぎて商売にならなくなる、ということがままあったんですね。最近は愛書家としても商売を続けていかなければいけない立場としても、バランスをとった買い取りができるようになりました。

 やっぱり、買い取り額が安いときはすごく(お客様に)説明しますね。「これはもう文庫に入っちゃっていて」とか「これは初版と書いていますが、出版社が替わってからの初版なので安いんですよ」とか。高い場合は売る人は文句ないじゃないですか。安いときこそ、こういう理由で安いんですよ、本当は高く買いたいんだけれども……、と。ぼくがよく言うのは、「本が悪いんじゃないんですよ。時代が悪いんですよ」」

(ま)「なるほど、上手いですね」

(う)「確かにこの本の値打ちは、値段をつけるとこんなもんになっちゃいますけど、価値はわかっています。素晴らしい内容なのはわかっています。でも、日本円にするとこうなっちゃうっていうのを、いやぁ、くやしいですねぇ、と(お客様と)一緒にくやしがって」

(ま)「あぁ、共感して」

(う)「そうそう、そんなカンジですね」

(ま)「そうすると皆さん、納得して托して下さいますよね。こちらとしても安心して売れるというか」

(う)「そうですね」

(ま)「以前、「本に愛情があると手放すときに寂しくなりませんか」とお聞きしたら、面白いことを答えて下さいましたよね」

(う)「あぁ、「本を奥さんや恋人と思わない」ってことですね。あくまでも娘と思う。「早く嫁に行けよ」という気持ちというか。だから、売れ残っていると、やっぱり可愛いですけど、「まだいたのかおまえ」「早く嫁にいけよ」という(笑)」

(ま)「あはは。本のお父さんなんですね」

(う)「なるべく磨いてあげたり、パラフィンをかけたりっていうのもいってみれば、嫁入り化粧をしてやるっていうカンジで「早くいい人にもらわれろよ」っていう。やっぱり本は読まれないと紙のかたまりですからね。次の読者をみつけてあげるっていうそういう気持ちですね」

(ま)「そういった右左見さんの気持ちがお店にいらした方に伝わっていると思います。今後、右左見堂で力を入れていきたいこととかありますか」

(う)「そうですね。ぼく一人でやっているので、なかなか目の届かないところもあって。せっかく買い取ったのにまだ値付けをしていなくて積み上がっている本もいっぱいあって、棚も埋まりきっていない状態なので、まずは店を完璧な状態にもっていきたいというのがあります。このへんはね、競合他店が無いんですよ」

(ま)「あ、そうなんですか」

(う)「そう、ですからこのへんの買い取りを征服するかのような気持ちでやっていきたいな、と…」

(ま)「おぉー!一手に右左見堂さんが…」

(う)「はい。あとは、なにかイベントをやりたいな、と思って。やっぱりこういうへんぴな土地ですから待っていてもあんまり人は来ないですからね。今回のビブリオバトルとか、この前は同人誌も出しましたし、なにかそういう本好きのサロン的な場所にできたらいいな、と思うんですけどね」

(ま)「実は私と右左見さんは、ビブリオバトル同期なんですよね。三年前、2014年の紀伊國屋書店さん開催のビブリオバトルでご一緒させて頂いて、そのご縁で今日、「こじらせビブリオバトル」を共催させて頂くのですけれど、ちなみに右左見さんがビブリオバトルに参加したきっかけは、どういったことだったのでしょうか」

(う)「ぼくはですね、ビブリオバトルを取り入れるのが早かった大学にいまして、「文学の会」というサークルにいたんですけれど。そこでビブリオバトルを持ち込んだ会員がいまして、やってみたら面白いなと思って。その後、大学の図書館主催の大会でチャンプ本を取ったりしていい気になって、「これは面白い!」と思ったんです。大学を出たあとはやる機会がなかったんですけれど、どういう場があるのかもしらなかったものですから。それで、ご一緒した紀伊國屋のビブリオバトルが二回目のビブリオバトルみたいなカンジで…」

(ま)「あ、あのとき二回目だったんですね。すごく緊張したとおっしゃっていましたけど」

(う)「そうそう。だから、「あわわ(汗)」ってなってましたね。お互いなっていましたよね」

(ま)「そうでしたね。たぶん、私のほうがなっていたかと思いますが、今ではすっかりビブリオバトルにハマっています。右左見さんにとって、なにがビブリオバトルの魅力だと感じますか」

(う)「そうですね。「ブッキッシュ」っていう言葉がありますけれど、本好きの人って、しゃべること、コミュニケーションが苦手っていう人が多い。でも、本というのは一つの「もの語り」がパッケージされているもので、それを好むっていうのはやっぱり、「語る」ことが好きなはずなんですよね」

(ま)「あぁ、本来は」

(う)「そう、本来は。でも、それがブッキッシュな性格ゆえにできないっていう。だからそういう人にとって、五分間しかも誰にも水を差されないで聴いてもらえる場というのは、モジモジ文化系・イケテナイ系の人間には有難い場だと思いますね」

(ま)「確かにそうですよね。これを見て下さった方が「ビブリオバトルってどんなものなんだろう」ときっと、興味を持って下さったかと思いますので、これから始まります「こじらせビブリオバトル」を見て頂けたらと思います。

 本日は、古書肆 右左見堂の店主・右左見 中道さんにお話をうかがいました。右左見さん、ありがとうございました」

(う)「ありがとうございました」